高級住宅地で5人の家族が暮らしていますが、ある日父親が母親に殺されてしまうことから物語は始まります。3人の子どもは賢く、礼儀もよいので周りからの評判はとても良いんです。模範的な家族ですね。そんな家族が急に「加害者家族」と「被害者家族」という2つの視点を持つ事になるという、特殊な状況を描くとともに、近隣住民の事件前と事件後について描いています。
近隣の住民は厄介な人間がとても多いです。個性豊かというかなんというか……。高級住宅地に住んでいるため、波風を立てないように、つかずはなれずの関係を保っていますが、事件が起きると以前から表面化していた感情はよりむき出しに、表面化していない人間の部分はすこしずつ明るみになってきます。
それぞれの近隣の住民と、5人家族の視点が別々に描かれて順序良く章が分けられて進んでいきます。この本のジャンルは何になるのか読み終わった後でもよくわかりませんでした。人には触れてほしいところとほっといてほしいところがあるということ。そして些細なきっかけで状況が変わってしまう可能性があることを考えさせられました。
私としては正直、なぜ父親が殺されてしまったのか、なぜ母親が殺してしまったのだろうかという謎解きよりも、あの家族で何かが起こってしまったという結果から、どんなに模範的な家族、または人間にも同じように罪を犯す可能性があったり、現実から逃げ出したくなるようなことがある、と著者は投げかけたかったのだろうと思います。
ですので、近隣住民はより闇の深そうな設定にして、5人家族を引き立てたかったのではないでしょうか。
お隣さんの3人家族は胸糞家族です。3人とも個性的で胸糞です。それでも人間らしいなと思ったりするので、地球上に住んでいる人間は大体胸糞です、気を付けてお付き合いしましょう。そして、そんな自分も胸糞なのでそんなに気負わないで生きていこうと伝えたかったと解釈しました。
この本は三人称視点で物語を別の視点、別の解釈で描いています。ですが、読者が迷子にならないように章分け(○○家)と、丁寧にどこで何をしているかの説明があります。読者への配慮が感じられます。
作者の湊かなえさんの作品は、「告白」や「Nのために」が有名ですよね。他にも映画化やドラマ化をした大ヒット作品が多いです。この夜行観覧車もドラマ化されたそうですよ(知らなかった……)
湊かなえさんの作風の幅を感じることができるのでこの本をお勧めします。
読んだ後、普段とはちょっと違った角度から人を見ることができますよ。
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